シャントについて/Shunt

病的シャントは先天性心奇形において見られ、ファロー四徴症、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、単心室症(無脾症)、動脈管開存症等がこれをきたす代表的疾患として挙げられる。特に、静脈系から動脈系への流出を右→左シャント、動脈系から静脈系への流出を左→右シャントと言い、どちらのシャントになるかは吻合部位の圧較差によって規定される。無論、圧力の高い側から低い側へと流れて行く。
いっぽう、シャントは健常人にも存在する。シャントとは狭義には上述の定義であるが、広義には肺におけるガス交換に与れない肺血流、すなわち換気血流比(1分間あたりの肺換気量を肺血流量で除したもの)が正常値に満たない部分のことも含む(この場合静脈血がそのまま動脈系に流入していると考えることができるので、右→左シャントである)。この肺胞におけるシャントと、健常人にも存在する解剖学的シャント(心テベシウス血管、気管支静脈など)をあわせて、生理学的シャントという。

シャントとは

腎臓の機能が悪化してくると尿毒症や心不全となり、そのまま放置しておくと、致命的になる恐れがあります。このように腎臓の機能が低下した場合に行われるのが定期的な(通常は1週間に3回)血液透析です。具体的には、腕の血管に針を刺し、1分間に150~250mlほどの血液をとり、透析器にて血液を浄化し、再び体内へ戻します。これを3時間から4時間続けて行います。しかし、普通に腕の静脈に針を刺すだけでは、そこに流れている血液の量が少ないため、多くても1分間に50mlほどの血液しか得られず、十分な透析治療ができません。逆に腕の動脈には十分な血液が流れており、動脈に針を刺せば透析を回すだけの血液が得られます。しかし、動脈は深いところを走っているために表面から見えず、簡単に刺すことが出来ません。そのため、手術を行い動脈と静脈をつないで、静脈に流れる血液量を多くして、そこから血液をとる方法が開発されました。このつないだ血管をわたしたちはシャントと呼んでいます。
シャントのトラブルは再手術により患者さんを苦しめるだけでなく,適切な血液透析療法を困難にします。安定した透析を行うためには良いシャントが必要不可欠です。

上肢の血管

シャントは腕の動脈と静脈を使って作ることが一般的です。下に、シャントに使う腕の血管の走り方とその名前を示しておきます。今後の説明の参考にしてください。

シャントの種類

シャントには以下に示した2つの種類があります。

①自己血管内シャント

②人工血管内シャント

前腕によい動脈と静脈があれば、それらを縫い合わせて作製する自己血管内シャントがもっとも良いものです。一般的にこのシャントは5年後も50%以上の患者さんで使い続けることができます。問題は両側とも前腕によい動脈と静脈がない場合です。この場合はやむをえず人工血管を移植してシャントを作製します。すなわち、どのようなシャントができるかは患者さんの動脈と静脈の質によって違ってきます。ほとんどの場合は術前の診察とエコー検査にて判断できますが、時には手術中に動脈や静脈が悪いことがわかることもあります。そのため、最終的には手術中の血管の所見によって手術術式を決めることとなります。

シャントを作る場合は、まず利き腕ではない腕に作ります。(透析中は穿刺されている腕はほとんど使えません。そのため利き腕にシャントを作ると透析中何かと不便です。)そのため、最初は利き腕でない側の前腕に自己血管内シャントを作り、これが使えなくなったら前腕の人工血管内シャントに変更します。これも使えなくなったら上腕に人工血管内シャントを作ります。上腕のシャントが使えなくなったら、対側の利き腕に移ることとなります。以上は腕についてですが、使用できる血管が腕になくなった場合には鼠径部(脚の付け根)の大腿動脈と静脈を用いてシャントを作ります。この場合は人工血管内シャントとなります。

①自己血管内シャント

もっとも代表的なシャントです。前腕で橈骨動脈と橈側皮静脈あるいは正中皮静脈と吻合して作るものが一般的です。変法として拇指の付け根で橈骨動脈と橈側皮静脈を吻合するタバチエール内シャントもあります。また肘で上腕動脈と正中皮静脈を吻合して作ることもあります。これらの場合は皮下の静脈に多くの血液が流れ、静脈が太くなります。この静脈を穿刺して透析を行います。このシャントが、通常、もっともつまりにくく、長期間にわたって使うことができます。このシャントの注意点としては、作ってもすぐには使えず、太くなるまで通常2-4週間待つ必要があることです。そのため、腎臓の機能が低下してきたら、あらかじめ、早めに自己血管内シャントを作って、血液透析に備えておくことが大事です。

②人工血管内シャント

前腕に使用できる表在静脈がない場合、代用血管を皮下に埋め込んで内シャントを作製します。代用血管としてはゴアテックス、ソラテックなどの人工血管が一般的です。ゴアテックスは従来もっとも多く使われた人工血管ですが、手術後3~4週間は穿刺ができないことが問題でした。ソラテックは1997年に薬事認可されたポリウレタンによる人工血管で、手術後すぐに穿刺ができるため、現在では多用されるようになってきています。透析はこの人工血管を穿刺して行います。人工血管を穿刺すると穴が開いてしまうため、2-3年で荒廃してきます。人工血管への感染も問題になります。また、人工血管と静脈の吻合部が狭くなりやすく、これが閉塞の大きな原因となります。このように、一般的には人工血管内シャントは寿命が短いため、できるだけ作らないようにしています。しかし、前腕に良い静脈がない場合は、やむをえず、作ることになります。

日本のシャント

わが国のシャントの現況を下の表に示しました。

シャントの形態

line 内シャント動脈表在化外シャントその他
自己血管人工血管
1998年 91.4% 4.8% 2.5% 0.2% 1.1%
2008年 89.7% 7.1% 1.8% - 1.4%

2011年の「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」より

このように、1998年と比べて人工血管内シャントが増えたものの2011年の時点ではシャントの多くは自己血管内シャントであり、人工血管内シャントは7.1%しかありませんでした。しかし、糖尿病性腎症の増加、透析導入年齢の高齢化、透析期間の長期化により、自己血管にてシャントが作成できない症例が増えてきており、現在人工血管の使用頻度はさらに多くなっていることが予想されます。

シャント手術について

麻酔

腕に作る場合は通常局所麻酔で行います。人工血管内シャントのように時間がかかる場合は鎮痛剤の筋肉注射を追加することもあります。手術中は局所麻酔の痛みを除けば、ほとんど痛みはありません。手術後は、痛いときは鎮痛剤を飲んでいただきます。これも数日のうちにおさまってくるのがほとんどです。 足の場合は局所麻酔では困難なことが多く、腰椎麻酔あるいは全身麻酔で行います。麻酔による合併症としてまれに呼吸抑制、血圧低下など重篤なものがあり全身管理が必要となることがあります。

手術時間

手術に要する時間は、自己血管内シャントの場合は1時間―1時間30分、人工血管を使用する場合は約2時間がおおよその目安です。抜糸までは2週間を要します。

手術直後の合併症

手術の最大の問題点は、作ったシャントがつまってしまうことです。このときには再度手術を行います。局所麻酔薬に対するアレルギーや術後の出血、創腫脹や感染も心配される合併症です。また、場合によってはシャントのため、心不全や手の先の血行障害が起こることもあります。感染の予防のため、抗生物質を数日間服用してもらいます。

良いシャントとは

正常のシャントではシャント血管の上にそっと手を置くと「ザー」と血の流れる感じ(これはスリルと呼ばれています)がします。動脈側吻合部周辺を除き、シャント血管が「ドクンドクン」と拍動性に触れることはありません。また、シャントを聴診すると、自己血管内シャントでは吻合部からシャント静脈に沿って、人工血管内シャントでは動脈側吻合部・人工血管・静脈側吻合部・静脈に沿って比較的低音の「ザーザー」というシャント音が認められます。シャント音が聞こえないことはありません。シャント側の手は対側に比べて若干の熱感はあるものの、あまり腫脹することはなく、色調も大きくは違いません。また、冷感・シビレ感・疼痛を訴えることもありません。透析中は十分に透析の血流(通常150-250ml/分)がとれ、静脈圧も低くなければなりません。静脈圧の目安は、血流量200ml/分で17ゲージの針で穿刺してある場合、自己血管内シャントで100mmHg以下、人工血管内シャントで150mmHg以下です。
すなわち、これら以外の症状・所見があれば何らかの異常がシャントにあると考える必要があります。

シャントの日常管理

内シャントの場合、生活の制限はほとんどありません。しかし、シャントの腕は腫れやすいので指輪や腕時計は避けたほうが賢明です。シャントの腕に重いものをぶら下げたりもしないでください。また、シャントのある腕にけがをすると大量に出血する恐れがあるため、外傷には気をつけてください。穿刺をして透析をした日は入浴できませんが、翌日は結構です。シャントの感染を防ぐためにシャントのある腕を清潔にしておいてください。人工血管が肘をまたいで埋め込まれているときは、腕枕のように長時間肘を曲げたままにしないでください。穿刺部からの出血を止めるための止血バンドは血が止まり次第はずしてください。

■ 日常生活でシャントを守るためには

大きな物を持たない。/手枕はしない。/腕時計をしない。/重い荷物を腕にかけない。/叩いたり、ぶつけたりしない。/血圧測定しない。/毎日シャントが流れているかどうか確認する必要があります。もし、シャントの音が弱かったり、聞こえなかったりしたら、シャントがつまりかけている可能性があります。すぐに先生や看護師さんに連絡してください。

穿刺部からの出血

透析後、止血が不十分な場合、帰宅後穿刺部から出血することがあります。
穿刺の穴から外へ血が出てくるときは、にじむ程度なら、ガーゼを当てるか、バンソウコウを貼って軽く圧迫し様子をみましょう。大量に出血して止まらないときは、穿刺部をしっかり押さえ、心臓より高い位置に手を上げ、しばらく様子を見ます。(10分くらい)それでも止まらないときは、透析施設に連絡を取り、指示を受けて下さい。
内出血して穿刺部の周辺が腫れてきたときは血流に注意して、穿刺した場所を3本位の指で押さえてください。(30分くらい)
(穿刺した場所と血管に刺さった場所には、少しずれがありますから注意してください。)

シャントの寿命および再手術

シャントは透析ごとに血液を取り出す所と返す所との2ヶ所を穿刺されます。これを週に3回するため、1年(52週)では約300回穿刺されることとなります。そのため、シャントの血管は徐々に荒廃してきます。その結果、シャントの一部が狭くなったり、つまったりします。シャントの一部が狭くなると透析の血流不足、静脈圧の上昇、シャント肢の腫脹などが見られます。この時はシャントの造影検査などを行い、PTA(バルーンによる拡張術:風船を付けたカテーテルで狭いところを広げる)あるいは手術でなおすことになります。また、つまった時は、シャント音やスリルがなくなり、腕が冷たくなります。このままでは透析ができませんから、緊急に手術をして治すことになります。どのように治すかはシャントの閉塞の原因、シャントの状態、残った動静脈の状態によって決めさせていただきます。その治し方については、このあとで述べます。
シャントの寿命を左右する因子は種々有りますが、大まかに言うと基礎疾患が糖尿病、高年齢ほど開存率が低くなります。これは、血管病変や動脈硬化を有することと関係しているからだと考えられます。この他に心合併症を有している患者さんや長期にわたる療養により末梢の静脈系が荒廃している患者さん、皮下脂肪が多く血管の細い女性の患者さんのシャントの寿命が短いと言われています。シャントの種類別では、私たちが調べた結果、自己血管内シャントの寿命は、3年で65%であり,5年で55%でした。また,人工血管内シャントにおいては3年で約30%,5年で約20%という成績でした。このように、自己血管内シャントは5年後も半数以上の患者さんで使いつづけることができます。一方、残念ながら人工血管のシャントの寿命は短く、3年後には70%ほどの患者さんが再度手術またはPTAを受けています。

PTAとは

PTAは切らずに針を刺すだけでできますが、効果の持続時間が短く、再発することが多いです。そのため、繰り返し治療が必要となることが多いです。

閉塞したシャントの治し方

前にも述べましたように、どのように治すかはシャントの閉塞の原因、シャントの状態、残った動静脈の状態によって変わってきます。
自己血管内シャントの閉塞の原因としては、動脈と静脈の吻合部が狭くなったり、頻回の穿刺によって静脈が狭くなったりすることが一般的です。条件によってはPTAで治療することができますが、PTAで治療できない場合は手術にて治療します。前腕にまだ良い静脈が残っていれば、上にあがって再度動脈と静脈を吻合してシャントをなおします。前腕に適切な静脈がなければ、前に述べたような人工血管を使った内シャントを作ることになります。

人工血管内シャントの閉塞の原因としては、人工血管と静脈の吻合部が狭くなることがもっとも多いことがわかっています。そのため、シャントの血栓を掃除するだけでうまくなおせないときは、狭いところをPTAするかそこに人工血管を使ってなおします。

シャントに代わる方法

シャントに代わる方法としては動脈の表在化というものがあります。この動脈表在化というのは、具体的には、肘の所で通常筋膜の奥にある上腕動脈を筋膜の上にもってきて、これを直接穿刺するものです。動静脈を吻合したり、人工血管を使う必要はありません。また、手の血行障害や心臓への負担もありません。しかし、3-4年の穿刺によって動脈が瘤のようにふくれてしまうことが多く、これを手術して治す必要が出てくることがあります。また、返すための静脈が荒廃して、刺せなくなってしまうこともあるため、シャントが作製できないような限られた患者さんで使われることになります。
この他に透析に必要な大量に血液を得る方法としては太い静脈にカテーテルという管を留置しておく方法もあります。これは一時的にはよい方法ですが、閉塞や感染が多く、長期間にわたり行うことはできません。また、カテーテルの処置のため入院が必要になります。最近、長期間にわたって使えるカテーテルも出てきましたが、6ヶ月ほどが限度のようです。すなわち、透析療法を長期に安定して継続的に行うためにはシャントが必要です。

シャント関連の主要合併症

①シャント感染

内シャントの場合は手術創の感染と穿刺に関連した感染があります。自己血管と人工血管を比較すると圧倒的に人工血管が感染を起こす率が高いことがわかっています。シャント感染が起こると、局所は赤く、熱を持ち、腫れ、痛みが生じます。早期ならば、抗生物質の投与でなおることがあります。しかし、ほかっておくとシャント感染から敗血症になり生命に危険が及ぶことがあるため注意が必要です。人工血管が感染した場合は原則的に手術して感染した人工血管を切除します。

➁シャント狭窄

シャントの血流不足、静脈圧の上昇、シャント肢の腫脹が見られた場合、狭窄を疑いシャントエコーまたはシャント造影を施行します。狭窄が認められればPTAあるいは手術が必要となります。

➂シャント閉塞

シャントの代表的な合併症ですが、対応を誤るとその後のシャントの予後を左右します。閉塞は突然生じる場合や徐々に血管が狭窄して血流が低下し、閉塞する場合が有ります。

➃スチール症候群

動脈血がシャント部より中枢に大量に流れ帰ってしまい、末梢に十分血液が流れず、指先に血行障害を起こした状態を言います。症状として冷感、蒼白化、疼痛さらには手指先端の壊死が出現します。症状が強い場合には、シャントの血流を落とすか、シャントを閉鎖し他の場所に新しくシャントを作ります。

➄静脈高血圧症

シャントを作製すると静脈は次第に拡張してきます。このシャントの流出静脈になんらかの理由で狭窄、閉塞が生じると静脈高血圧を発症することがあります。このような病変が比較的末梢レベルに生じた場合には手背にうっ血、浮腫が出現するsore thumb syndromeと呼ばれる状態になります。一方、腋窩静脈よりも中枢側に血管病変が存在する場合には腕全体が腫脹します。対策として病変部位をPTAにて拡張します。しかし、完全に閉塞していて拡張出来ない場合や、病変が硬くて拡張出来ない場合には手術にて治療します。病変が末梢にある場合には、その中枢でシャントを作り直し、中枢側で手術が困難な場合には残念ながらそのシャントは閉鎖します。

➅シャント仮性瘤

人工血管は穿刺により壁の線維の断裂が起こります。通常は圧迫止血により修復されますが、同一部位の反復穿刺などにより大きな断裂が起きてしまうと、穿刺部位周囲に血腫が形成され仮性瘤が発生すると考えられています。皮膚が光沢を帯びる場合や瘤が急に膨張する場合、じわじわと出血する場合などは大出血をきたす可能性があるため手術が必要になります。

➆血清腫

人工血管としてゴアテックスを使用した場合、血液が人工血管内を流れ始めた時点である程度の血漿が壁から漏出するのは避けられません。しかしほとんどの場合内腔に形成される薄い膜や周囲組織との器質化より、血漿の漏出は次第に止まります。この漏出が持続し、漏出液が人工血管周囲組織内に貯留し、嚢胞状となったのが血清腫とよばれるものです。根治的治療としては手術で、腫瘤および人工血管を摘出します。ソラテックは素材がゴアテックスとは異なるため血清腫の形成はありません。

➇内シャントの過剰血流

シャントが流れている状態では、心臓への還流量が通常よりも慢性的に増えております。患者さんによっては、シャントが心臓に負担をかけ心不全を発症する場合があります。その時はシャントの流れを落とす手術が必要になってきます。

以上シャントについてご説明いたしました。シャントのトラブルは再手術により患者さんを苦しめるだけでなく,適切な血液透析療法を困難にします。安定した透析を行うためにはよいシャントが必要不可欠です。十分なご理解をお願いします。

名古屋血管外科クリニック

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